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〜 創想雑誌 〜
−>>2004/03/25/(Thu)
は、あるか? (終)
-
〜最終章〜 DVCAM-HDに光なし
さて、いよいよ DVCAM-HD の可能性について検証してみる。
まず初めに考えなければならないことは技術的な点ではなく、SONYの市場戦略の点である。
本来 DVCAMフォーマットは、「業務」市場への展開を目論んでSONYが登場させたフォーマットである、現在に至っては「業務」市場を超えて放送用途でも使用される場面が多々あるが、しかしシェアは「業務」市場における占有率の方が圧倒的であるはずである。
ところで、この「業務」市場とはどういったカテゴリーとしておくべきだろうか?
「放送」も広義の業務であって、「業務用機材」の範疇に入れることもできるし、産業用カメラなども業務用機材である。
しかし、日常的に我々が「業務用」と呼んでいるカテゴリーは『最終パケットがVTRによる納品』である市場を主に業務用と呼んでいるのではないだろうか?
であるから、具体的には企業VPやブライダルビデオ、プロモーションビデオなどの分野が業務用機材が担う市場であると思う。
現在はVTRだけでなく納品はDVDで行う……というケースも多くあるだろうが、とにかくも最終的にはパッケージメディアに納めることになる。
業務市場とは此処では以上のような定義とする。
さて結論であるが、そうすると DVCAM-HDが登場する可能性は、現在はゼロである。
つまり“DVCAM-HD”は今のところあり得ないというのが私の結論である。
理由は至極簡単。
ハイビジョンで制作を行っても、それをクライアントに納品するための「メディアが無い」のである。
現在、納品メディアの多くがVHSかDVDの形をとっていると思うが、その最大の理由は受け取り側(クライアント)が持っている再生用メディアが、それら2つであることが多いからだ。
DVCAM-HDを使ってハイビジョンでビデオをつくり、いざクライアントに納品するときにSDにダウンコンして手渡すのでは、初めからSDで制作したほうが、当たり前だが安上がりである。
クライアントの多くが D-VHS や Blu-ray Disc を所有しているとは考えにくい。
確かに業務市場の範囲でハイビジョン撮影を行い、特殊な状況で上映する可能性は十分に考えられる。
しかし、その「特殊」な要望がどれほど業務市場にあるのだろうか?
減価償却を行いにくい現状でハイビジョン機材を業務に導入する経営者は、まず居ないと考えるべきである。居るとすれば娯楽として楽しもうとする人だろう。
しかし、逆に考えれば Blu-ray Disc やいわゆる HD DVD が広く世に普及すれば DVCAM-HD の可能性は見えてくる。
プラズマテレビを筆頭にデジタルハイビジョンテレビの売り上げはこの不況下にあっても比較的堅調であり、徐々にではあるが家庭内にハイビジョンの春風がそよぎつつある。
地上デジタル放送の視聴地域の順次拡大に伴い、ハイビジョン放送が身近になればさらに受像器の拡販が見込めるだろうし、それと共にハイビジョン録画デバイスも広く出回るようになるだろう。
それが Blu-ray Disc になるか HD DVD になるかは判らないが、いずれにしても企業や家庭内にハイビジョンが入り込み、ハイビジョンによる視聴が当たり前になれば DVCAM-HD が活躍する時代になるだろう。
しかし、そういった時代になるまで DVCAM-HD は“なり”を潜めていられるだろうか?
たとえば、十分にハイビジョン視聴環境が整っていない現在、DVCAM-HD を導入し、ビデオ制作依頼を受けたとする。
その時に、
「ハイビジョンで撮影なさいますか? 今回はDVDでお渡し致しますが、将来的にハイビジョンDVDなどが出たときにはハイビジョンで改めて納品するオプションもご用意しております」
という営業が考えられる。
物好きなクライアントであれば、「じゃぁ、そのオプションつけておいて」という話になるかもしれないが、大抵の場合、如何に安く制作経費を抑えるかという事に躍起になるのであって、そんな悠長なオプションに余計な金は注ぎ込まないだろう。
双方に流動資産と流動負債が生まれる現時点では、見切り発車できる程の余地もないのが「業務用」の世界である。
つまり、ある程度のハイビジョン視聴環境が世間に整わない限りは、業務用機としての DVCAM-HD が登場することはないのである。
なお、現在のDVDプレーヤの普及率は25%強(※)であり、ハイビジョンメディアの普及率も25%を超えないと商売としてハイビジョン納品を行うのは難しいであろう。
(※):内閣府の消費動向調査【主要耐久消費財の普及率(全世帯)】平成15年3月調査より。
この時間的間隙のうちに、たとえば HDCAMが低価格化する可能性も考えられる。
また、ハイビジョン制作システムの低価格化で、実際にその動きが起こっているのはDVCPRO HD EXである。
DVCPRO HD EX シリーズは従来の DVCPRO HD のLP版と言える規格で、基本的な映像信号処理特性は DVCPRO HD と同等である。
長時間収録化はトラックピッチを従来の18μmから半分の9μmに狭め、ENGカメラ用Mカセットで最大92分もの収録が可能となっている。(従来はMカセットで16分)
また、Lカセットよりも一回り以上大きなXLカセットを独自に採用し、スタジオレコーダで最大126分の長時間収録にも対応した。
気になる価格の方であるが、DVCPRO HDカメラレコーダ“AJ-HDX400”が実売で約360万円である。対する HDCAM カムコーダ“HDW-750”が実売約600万円であるので、破格とも言えるハイビジョンカメラである。
また、テープのラニングコストも DVCPRO 50 と同等のものとなり、運用費用を押さえることができる。
なお、DVCPRO HD と HDCAM のフォーマットテーブルを掲載する。
DVCPRO HD HDCAM テ
|
プテープ幅 6.35mm 12.65mm カセット Lカセット/Mカセット Lカセット/Sカセット 記録時間 Lカセット:46分 Lカセット:124分 Mカセット:16分 Sカセット:40分 記録方式 テープ送り速度 135.28mm/s 96.7mm/s ドラム回転数 18000rpm 5400rpm ドラム径 21.7mm 81.4mm トラックピッチ 18.0μm 21.7μm トラック数 フレーム:40本 フィールド:6本 記録速度 20.36m/s 22.9m/s 最短記録波長 0.49μm 0.49μm 映像 サンプリング周波数 輝度信号:74.25MHz 輝度信号:74.25MHz 色差信号:37.125MHz 色差信号:37.125MHz 量子化 8bit 10bit (圧縮処理8bit) 音声 サンプリング周波数 48kHz 48kHz 量子化 16bit 20bit チャンネル数 8ch 4ch 圧縮 映像圧縮方法 フレーム内DCT フィールド内DCT 映像圧縮比 1/6.7 1/7 映像転送レート 100Mbps 140Mbps
さて、仮に DVCAM-HD を発売するのであれば、この DVCPRP HD EX と同等の価格帯かそれ以下の必要がある。
DVCPRO HD EX は放送の現場で活用できるだけのキャパシティーをしっかりと整えた規格であるが、対する DVCAM-HD は HDV規格の余裕のなさから考えても地上波放送用途として導入するには力不足である。
であるから価格帯としては、現行のSD業務用カメラからかけ離れた価格ではなく、またDVCPRO HD と差別化をする意味でも300万円上限でカムコーダを発売してもらいたい。
これぐらいの価格であれば、個人経営のビデオ制作会社でも導入が十分に考えられるだろう。
しかし、おそらくは DVCPRO HDも現在空白である業務用ハイビジョンの市場を確実に睨んで居るはずであるので、今後さらに低価格なカムコーダが発売されることは間違いない。
その時期になってDVCAM-HDが登場して、先達の占める市場をひっくり返せるだけの魅力を発揮できるかが大きな課題である。
また、もう一つの懸念としては、SONY自身が業務用ハイビジョン仕様を“他のフォーマット”を使って開拓しようとする可能性である。
現在、SONYのENGフォーマットの主立った規格は、
「DVCAM」「ベータカム SP」「ベータカム SX」「MPEG IMX」「デジタル ベータカム」「HDCAM」とできるであろう。
それぞれの関係を一概に結びつけることは難しいが、ベータカムSPのデジタル化上位規格がデジタルベータカム、ベータカムSXの進化系が MPEG IMX と考えて間違いはない。
また HDCAM規格には更に HDCAM SR という MPEG4 Studio Profile を採用した最上位規格がある。
さて、そうなると業務用ハイビジョン規格はデジタルベータカム規格以下のベータカムシリーズより誕生する可能性が大きい。
デジタルベータカム HD などというのは魅力的な規格であるが、結局これは HDCAMとして存在しているため、候補から消える。
ベータカム SP はデジタルベータカムの下位規格であるので、こちらから新たに何か規格が生まれるとは考えにくいし、SONYにとっては過去の規格と言える。
そうすると、 MPEG IMX の存在は不気味である。
MPEG IMX はSONYのSDベータカムシリーズの中でも最後発の規格である。
SDフォーマット系の低価格高画質を目指した規格であり、カムコーダ“MSW-900”は実売にあって380万円前後と安価な部類に入る。
MPEG2による映像圧縮であるため、PCとの連携も良く、コンテンツサーバなどのアーカイブ性の高い分野でも、比較的小さな容量で高画質映像を提供することが可能である。
また、1GOPによる1フレームのイントラフレームで構成されているため、MPEG2規格ではあるが1フレーム単位の編集も可能である。
さて、此処で興味深いのはSONYの最近のフォーマットは、すべてMPEG系の圧縮フォーマットを採用していることである。
PCとの連携が当然のようになり、またMPEG2-STによるデジタル放送が始まっている現在、今後のフォーマットはそういった環境との親和性が高いフォーマットが必要とされていくため……という事であろう。
MPEG IMX のサンプリング構造は 4:2:2。圧縮率は1/3.3と低めに設定されている。
デジタルベータカムは圧縮率 1/2と、デジタル圧縮フォーマットとしては最も低い圧縮率を採用しており、映像信号量子化ビット数も10bitと他のSDフォーマットを寄せ付けない高画質を実現している。
MPEG IMX はそのデジタルベータカムに迫る画質を持つと言われ、運用コストの面ではこれを凌ぐ。
MPEG IMX は、現在は欧州において報道の分野で活用されることが多いようだが、業務用途としても初期投資額はそれなりであるが、ラニングコストと画質のコストパフォーマンスとしては魅力的ではないだろうか?
さて、現状の MPEG IMX について見てきたが、この規格がHD化する可能性は大いにある。
一つ興味深い画像がある。
これは、NAB 2003におけるSONYブースでのプレゼンテーションスライド画像をもとに起こした物である。
つまりちょうど今から一年前のものである。
これを見ると、MPEG IMX は HDカテゴリーを含む可能性のある規格であることは間違いない様に思われる。
特に、まもなく発売されるXDCAMシリーズでは、DVCAMフォーマットの他に MPEG IMX も採用している。
MPEG IMX を採用している PDW-530 の定価が350万円であるため、ますます MPEG IMX の低価格化は進んでいくだろう。
HDCAM > MPEG IMX > DVCAM とSONYのフォーマットヒエラルキーは明確のようで、やはり、規格的に厳しい HDVを業務用途化した製品を登場させるとは考えにくい。
さてここで、MPEG IMX-HD と DVCAM-HD フォーマットを想像してみる。
まずは、DVCAM-HDである。
HDVの規格を基本と考えるならば、DVとDVCAMの規格差は、音声の同期とトラックピッチであったので、最大収録時間はスタンダードカセットで HDV の2/3の180分、Mini DV で40分である。(80分 Mini DV カセットを採用した DVCAM 53分テープは無い)
そのほかはHDVを踏襲しているものと考える。
現状でDVCAM規格が幅広く業務用途で利用されていることから、ハイビジョン規格であっても、この記録時間は十分なものと考える。
対して、MPEG IMX-HD であるが、こちらは多少現状の MPEG IMX についてまとめておく必要があるだろう。
MPEG IMX は、サンプリング構造:4:2:2、映像信号量子化ビット数:8bit、輝度信号サンプリング周波数:13.5Mhz、色信号サンプリング周波数:6.75MHz を基本映像信号とし、MPEG2 422@ML で1/3.3圧縮されている映像規格である。
422@MLは、Levelが Main Level であり最大取り扱い解像度は 720x576、Profileは422 Profile で DVDなどに用いられる Main Profile とくらべて色解像度が高くなる。
MPEG IMX-HDのフォーマットの可能性はいくつか考えられるが、まず圧縮方式が MPEG2 422@HLになることは間違いない。
Profileは同じ 422 Profile だが、Levelはより高い解像度を扱える High Leve が採用されるはずである。Hight Level では最大取り扱い解像度が1920x1152と、フルフレームハイビジョンのサイズを扱え、また最大ビットレートは300Mbpsとなる。
HDVが採用している H-1440 Levelを利用して、422@H-14という規格でも現状では十分な気がするが、残念ながら実は 422 Profile には H-1440 Level との組み合わせクラスが無い。(第二章のMPEG2テーブルを参照)
そのために、MPEG IMX-HD は MPEG2 422@HL を採用すると考えるのである。
次にビットレートだが、現在の MPEG IMX の最大ビットレートは50Mbpsである。
おそらくは、解像度は1440x1080を採用してくると思われる。
その場合の圧縮前のビットレートは、
{(1440x1080x8)+(720x540x8)+(720x540x8)}x30≒560Mbps
となる。
これを仮に50Mbpsに納めるのであれば、1/11.2圧縮となる。
かつての ベータカム SX が1/10圧縮であったようなので、一見すると使える画質に思えるが ベータカム SX が GOP=2フレーム のフレーム間圧縮に対して、MPEG IMX は完全なイントラフレーム圧縮であるため、この圧縮率では画像の破綻は目に見えている。
そこで、現在の放送用ハイビジョン規格系と同じ100Mbpsに納めることを考えると、1/5.6圧縮とDV圧縮程度に抑えることができる。
さらに、HDCAMが採用している帯域制限技術とビットリダクション技術などを導入し、より効率の良い圧縮を行うことで1/7〜1/8圧縮あたりが実現できる可能性がある。
1/2インチテープへの記録時間はSカセットで40分程度となり、業務分野での運用では少々心許ない。
ビットレートを如何に抑えて、高画質を保ち、1/2インチテープあるいは、将来出てくるであろう2層記録型 Professional Disc に長時間記録するかが課題となる。
MPEG IMX という規格自体が MPEG2に拘らないのであれば、MPEG4圧縮を採用するという方法もある。
こちらの方がより効率的に画像を圧縮できるため、同じビットレートでもさらに高画質を実現できる。
実は、DVCAM-HDが登場するならば、私自身はHDV規格の上に立脚した規格である必要はないと思っている。
DV系のフォーマットの魅力の一つはカセットテープの小ささである。
スタンダードテープにしてもそのサイズは従来の1/2テープのサイズを大きく下回る。
であるから、DV系フォーマットのハンディーカメラは“Lカセ”採用のメカデッキをコンテインできるのであり、そのカセットサイズの魅力を最大限活かした規格で、HD対応のフォーマットを作ってもらっても良いと思う。
MPEG4採用の50Mbpsの規格。スタンダードテープならば90分。Mini DVだと20分になってしまうが、1/2テープSカセットの事を思えばスタンダードテープをその名の通りスタンダードにして運用すれば、いささかの問題もない。
従来の DV・DVCAM、さらにHDVとは上位互換を保ち、ノンリニア送出用のデッキにはそれらの規格の再生機能をサポートすればよい。
1/2インチ系フォーマットのマルチプレイング環境を培ってきたSONYであれば、容易な事であるはずだ。
先ほどの CeBIT 2004 において、ついにSONYからも1080i対応のHDVカムコーダが参考出展された。
モックアップとしても初期の段階のもので、今後どのようなスペックのカメラになっていくかは楽しみであるが、とにかくも家庭向けビデオカメラの範疇に収まる。
今、ハイビジョン市場は、地上デジタル放送の拡充に追われる放送分野とメディア移動を考慮せずに済む一般消費分野で拡大を始め、業務分野を置き去りにした形で市場が形成されつつある。
しかし、これは考えてみれば決して前代未聞の事態ではない。
今でこそ各家庭にVHSカセットプレーヤがあるのが当たり前の時代となったが、30年も遡れば、業務市場の分野は一般企業すらクライアントにし難い環境であったはずだ。
現在の業務市場も、その後のVTRやDVDなどの一般普及に伴い成長していったのであり、今日に至って、新たにハイビジョン市場への助走を始めたばかりに過ぎない。
今のテレビを、わざわざ「カラーテレビ」と呼ばないのと同様に、いずれ「ハイビジョンテレビ」も「テレビ」とだけ呼ばれる時代が来る。
そこでは、テレビ番組でも運動会でもブライダルでも、ハイビジョンカメラが当たり前のように使われており、記憶よりも鮮明で、体験よりも臨場的な映像がお茶の間を賑わせていることだろう。
その時、我々の手元にあるビデオカメラはどれほど魅力的なものであろうか。
by Signature Line
>宏哉:ACC*visualization
……時間、掛かりすぎました。第一回コラム・3部作………予定外の物となりました。
他のコラムニスト達から、「あんなの書かれたら退くよ…」と言われてしまいましたが、私も退いています…。
結局、結論としてはDVCAM-HDは無い…という事なのですが、最終章的には煮え切っていません。
やはり4部作にすべきだったと(笑)
MPEG IMXは面白くて魅力的な規格だと思いました。
デジベに対して、MPEG IMXを欲しいと言っている人をあまり耳にしないのはやはり知名度の問題でしょうか。
ちょっと今後、MPEG IMX の動向を追っていきたいなぁと思いました。
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