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〜 映像信号のデジタル化 〜
(更新日:05/05/06)
ここでは、HDVフォーマットをより一層理解するために、映像信号のデジタル化について、DVフォーマットと、HDVフォーマットを中心として復習していきたい。
なお、本稿で記す内容は、当サイト『創想雑誌【2004/02/01/(Sun)〜2004/02/10/(Tue】号)』に加筆修正を施したものであることを予めご了承頂きたい。
デジタイズとは
本来アナログな映像信号をデジタイズする場合に「量子化ビット」と「サンプリング周波数」という2つのパラメータの設定によってサンプリングを行う。
「量子化ビット」とは、アナログ信号の縦軸(信号強度)を何段階に分割してデジタイズするか、というもので、DVフォーマットでは8ビットとなっている。
8bitの場合、表現出来る階調は256(2の8乗)段階である。
「サンプリング周波数」は、アナログ信号の横軸方向(時間軸)において、どれくらいの時間頻度でサンプリングするか、というもの。
周波数とは、1秒間に繰り返されるこの波の数のことであるため、例えば、DVフォーマットに於ける輝度信号のサンプリング周波数「13.5 MHz」では、1秒間に「1350万回」のサンプリングを行っていることになる。
<アナログ信号とデジタル信号のサンプリング模式グラフ>
さて、このサンプリングが圧縮を掛ける前のデジタル映像情報を作り出すわけであるが、すでにこのサンプリングにおいて、情報の「間引き」が始まっている。
一般的にデジタル映像信号を扱うときは“RGB”から“YCbCr(YUV)”へと色空間変換が行われる。
YCbCrでは、「人間の視覚は輝度にし対しては敏感だが、色に対しては比較的鈍感である」という人間の目の特性を利用して、色差成分のCb、Crから、視覚上で劣化が分からない程度に情報を間引くことが行われている。
RGBからYCbCrへの変換は、
Y= 0.2989xRed+0.5866xGreen+0.1145xBlue
Cb=-0.1687xRed-0.3312xGreen+0.5000xBlue
Cr= 0.5000xRed-0.4183xGreen-0.0816xBlue
で行われるが、この段階でのY:Cb:Crの情報量の関係は等しい。
この状態では、情報量が多すぎるために、放送用フォーマットではCbCrの帯域を輝度(Y)の半分にした4:2:2方式が、DVフォーマットでは、1/4の4:1:1方式が採用されている。
4:2:2や4:1:1の考え方は以下のような図式で表現できる。
水平方向4ピクセルを基準として考え、輝度は各ピクセルごとに8ビット、色差は2ピクセルごと、あるいは4ピクセルごとに平均して8ビットでサンプリングする方式と考える。
4:2:2の場合………
輝度は各ピクセルごとに8ビット、色差は2ピクセルごとにサブサンプリング(平均化)して8ビットでサンプリングする方式。その場合1ピクセル16ビットの情報量となる。
4:1:1の場合………
水平方向4ピクセルで色差情報を平均化する。1ピクセルの情報量は12ビット。
これを先のアナログ信号に対するサンプリング図に置き換えると、以下のような表現になる。
一番右がDVフォーマットの色差信号のサンプリング模式図となるが、他と比べると如何に情報量が少ないかが分かる。
色解像度で考えれば、輝度解像度は 720x480 だが、色に関してはPb,Prそれぞれ 180x480 となり色解像度の低さがよく分かる。
そのDVフォーマット4:1:1では、1ピクセルの情報量は12ビットとなるため、初めに掲げた約250Mbps(4:4:4の場合は1ピクセル24ビット)から、その半分の約127Mbpsにまで映像のデータレートを下げることが出来る。
実際には、
Y=108Mbps(= 13.5MHz × 8bit)
Cb= 27Mbps(= 3.375MHz × 8bit) = 合計 162Mbps
Cr= 27Mbps(= 3.375MHz × 8bit)
であり、162Mbpsに含まれるブランキング部分(Vシンク・Hシンクなど)を差し引いて約125Mbpsとなっている。
計算色式 : {(720x480x8)+(180x480x8)x2}x30≒125Mbps
なお、4:2:2で変換した場合の映像ビットレートは約170Mbpsで、この情報量の差が色解像度の差であり、DVフォーマットが色解像度の点で不利であることが分かる。
125Mbpsにまで落とされた映像データはさらに、可逆圧縮のVLC圧縮や量子化数の丸め込みを行う離散コサイン変換(DCT)などの圧縮処理を経て25Mbpsにまで圧縮される。
テープへの記録は、この映像信号に音声信号やサブコード情報(撮影日時など)、エラー訂正信号などが付加されて、41.85Mbpsで記録されている。
HDVフォーマットのデータ量
HDVフォーマットは1080iと720pの2つの規格を内包するが、いずれもDVフォーマットに対して膨大な情報量を扱っている。
1080i規格は、解像度 1440×1080 で、フレームレートは60fps/50fps。
720p規格は、解像度1280x720 で、フレームレートは60fps/50fps/30fps/25fps。
1080iと720pでは、それぞれのフレームサイズ/フレームレートにも大きな差があるのだが、HDV1080iとHDV720pとでは、まるで別規格であるかのように様々な規格の差異が他にも多くある。
まずは、サンプリング周波数である。
720p・1080i のそれぞれの輝度サンプリング周波数は、前者が 74.25MHz、後者が 55.7MHzである。
74.25MHzというのは標準的なフルフレームデジタルハイビジョンのサンプリング周波数である。
輝度サンプリング周波数を求めるには、有効画素数ではなくブランキングも含める総画素数から求める。
720pの場合、
60(Frame) x 750(Line) x 1650(Pixel) = 74250000 = 74.25MHz
と計算される。
同様に、1080iの場合は、
30(Frame) x 1125(Line) x 1650(Pixel) = 55687500 = 55.6875MHz
と出る。
次に量子化ビット数であるが、両者は輝度・色差信号共に8bit、サンプリング構造は4:2:0である。
この4:2:0については、後で詳述する。
圧縮後のビットレートは、720p規格が19Mbps、1080i規格が25Mbpsである。
720p規格は、従来からDVフォーマットの規格が定められているブルーブックに記載されている「MPEG2のトランスポートストリームをDVテープに記録する方法」に準じている。
それに拠れば、MPEGのストリーム(映像・音声)記録は19Mbps以内で行うことになっており、そのためにHDVが統一規格化された後も、先行して発売された“Vicotr GR-HD1”のフォーマット形式を倣って19Mbpsになっているものと考える。
一方で、1080i規格はブルーブックの定義を越えて25Mbpsである。
上述のブルーブックでの決まりでは、DVフォーマットでいう“ビデオトラック”にのみデータを書き込む仕様になっており、同フォーマットの音声トラックは利用しない。
であるから、720p規格のHDV機器は従来のDVフォーマットに於ける音声トラックは空っぽの状態なのである。
それでは無駄があるということで、SONYが持ち出した1080i規格ではオーディオ部分も使って記録を行い25Mbpsのビットレートを確保しているのである。
<テープトラックーパターンの図式>
なお、「720pが、ビデオトラックだけを使っているとしても、DVのビデオトラックは25Mbpsだから、720pでも25Mbpsまで利用できるのではないか?」と思うかも方もいるかも知れない。
確かにDVフォーマットの映像ビットレートは25Mbpsであるから、ビデオトラックだけでも25Mbpsの領域を確保できそうなようなものだ。
しかし、実際には映像・音声のデータ以外に、“トリックデータ”と言われる特殊再生時に使用する専用データがある。
これはHDVがMPEG2(フレーム間圧縮)であるがために、表示困難である特殊再生時(サーチやスロー等)における映像表示を可能にするためものもので、サーチ時にドラムヘッドがトレースする位置に埋め込まれており、データ量は3.8Mbps。画面更新率は2〜4fpsとなっている。
このトリックデータ3.8Mbpsと映像・音声の最高データレート18.7Mbpsを足し合わせると22.5Mbpsとなり、映像トラック25Mbpsを十分に使って記録することとなるのである。
勿論、1080i規格も同様のトリックデータが記録される。恐らくは同じサイズのトリックデータ量だろうが、そうすると、25Mbps+3.8Mbps=28.8Mbpsとなる。
DVフォーマットに於ける映像+音声データの総ビットレートは丁度28.8Mbpsであるので、1080i規格はフルにDVテープの記録領域を使用していることになる。(無論、この他にもサブコード情報なども付加されるため、最終的には40Mbps以上のデータとしてテープに記録される筈である。)
さて、それではHDVはどれほどの情報量を扱っているのか見てみる。
その前に、確認しておかねばならない事項がある。
それはサンプリング構造の“4:2:0”というものだ。
4:2:0では、4:2:2サンプリングを行った後に、さらに垂直2ピクセルの色差情報をサブサンプリング(平均化)する方法で、1ピクセルの情報量は12bitになる。
4:2:2サンプリングでは16bit/pixelであるため4:2:0の方が当然画質は落ちる。
同じ12bit/pixelであれば、DVフォーマットと同じ4:1:1でも良いように思えるが実は、そうはいかないのである。
ハイビジョン信号は走査の仕方が少々複雑で、次のようになっている。
ハイビジョンの色信号は走査線1ライン毎に飛ばして表示され、Cb信号が表示されたラインにはCr信号が表示されず、その上下のラインに表示される。
さらに、CbとCrのラインは1フレーム毎にラインを入れ替わり、結果的に1ラインだけを見ると、1フレーム後に、「Cbのみ」か「Crのみ」の走査ラインが生まれているわけである。
この方法であると垂直色解像度は低下するが、垂直・水平で見た場合の総合的なバランスでは優れているとされる。
この様な色信号のラインごとの交互入れ替えというのはPAL方式のDVフォーマットで採用されており、サンプリング構造として“4:2:0”と表現する。
さて、以上の事を踏まえフルフレームデジタルハイビジョンのデータ量を割り出してみる。
量子化ビットはDVと同じく8bitであるので、
{(1920x1080x8)+(960x540x8)x2}x30≒746Mbps
と求められる。
これはDVデータの125Mbpsに対して実に6倍近いデータ量である。
仮にこのデータをDVと同じ1/5圧縮すると150Mbpsになり、DVテープに収められたとしても 60分テープに10分しか収録できない計算になる。
746Mbpsのデータを25Mbpsに収めるためには、約1/30に圧縮する必要があり、如何にMPEG2といえどもこれでは画像が破綻することは目に見えている。
では、HDV規格の1440x1080ではどうなるだろうか?
同様に計算してみる。
{(1440x1080x8)+(720x540x8)x2}x30≒482Mbps
である。
つまり、サンプリング直後の1080i規格のビットレートは約482Mbpsということである。
これを25Mbpsに収めるとするとおおよそ1/19になり、フルフレーム1920x1080時の圧縮率より大分軽減される。
同様に、720p(1280x720x30fps)の場合は、
{(1280x720x8)+(640x360x8)x2}x30≒332Mbps
であり、19Mbpsに収める圧縮率は1/17程度となる。