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〜 SONY HVR-S270J/Z7J/動体歪み検証 〜
(提出日:08/03/08)
■CMOSイメージセンサによる動体歪みの原理
CMOS とは、一般的に LSI構造の一種「相補形金属酸化膜半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor)という大規模集積回路の事を指し、CMOSイメージセンサは CMOSロジックLSI製造プロセスの応用の一つであり、光電変換と信号電荷の増幅、電荷伝送の構造を組み込むことで撮像素子(イメージセンサ)として機能している。ここでは、特段の断りがない限り CMOS=CMOSイメージセンサとして取り扱う。
CMOS の製造プロセスや構造、動作方式は専門書に譲るとして、CMOS固有の現象である「動体歪み」に関して、簡単にその原理を説明したい。
「動体歪み」は先のページで紹介したように、素早く動く被写体が、画面内で歪んで撮像されてしまう現象である。
従来馴染みのある CCDイメージセンサでこの様な症状が発生しないのは、光電変換した後の電荷の蓄積のタイミングの違いにある。
CCDではCCD上のフォト・ダイオード(光電変換素子)に同一期間に入射した光を信号電荷として蓄積したあと、その信号電荷を全て同時に読み出す動作を行っている。
それに対して、CMOSではフォト・ダイオードに入射した光を信号電荷として蓄積するまでは同様なのだが、CMOS上の画素ごとに“電荷の蓄積→信号出力”を行い、CMOSの基本動作上、信号出力を行った時点から、再び次の光電変換した信号の蓄積を開始するという動作特徴を持っている。
(出典:CCD/CMOSイメージ・センサの基礎と応用(米本 和也 著・CQ出版))
テレビ映像の信号伝送は「走査」という方法で一画面を分解し、効率的に伝送する仕組みを採っているが、撮像時の信号の取り出し方でも、それにならって「走査」することで映像信号を記録していく手法を採っている。
走査の仕組みやテレビの映る仕組みについては、ここでは触れないが、その走査により1フレーム内の1列分の画素群で構成されるのが走査線とする。
CCDでは、1フレーム分のどの走査線においても CCD上の画素の信号電荷の蓄積は同一期間になっているのだが、CMOSでは走査線単位で見ると、走査する時間差分だけ信号電荷の蓄積期間がずれてしまう為、同じ1フレーム内の被写体であっても、被写体の動きが速い場合は、フレーム内の上下で被写体の同時性が崩れ、歪んだ物体として映ってしまうのである。
CCDの様に全画素を同時に読み出す方法を「グローバル露光(グローバル・シャッタ)」、CMOSの様に走査する走査線(ライン)ごとに信号を読み出す方法を「ライン露光(ローリングシャッタ・フォーカル・プレーン蓄積)」と呼んでいる。
以上の課題を「蓄積の同時性」とするが、では具体的な図案でどのように「動体歪み」が発生しているのか説明する。
ここでは簡単の為に、1/30秒で走査が行われ、映像信号が取り出されると仮定する。
一般的にビデオ画像のコマ数が30コマで1秒なので、1/30秒というのは、ビデオ画像を構成する最小の時間だと考えて欲しい(60iの考え方やその他の方式は、簡単のため考慮しない)
まず、<図1>の様に、1/30秒で画面内を左から右へ移動する車両を想定してみよう。
<図1>(実際には1/30秒の動作だと思って欲しい)
次に、この画面を1/30秒で走査する。
走査すると、CMOSの画素からは信号電荷が取り出され、走査され電荷が空になった画素は、再び電荷の蓄積を開始する。
<図2>のスリット部分が、走査するラインを模式図として示す。(※実際には電子的に実現されている)
<図2>
<図1>を<図2>で走査したとする様子を次の<図3>で示す。
<図3>
模式図では、1/30秒を5秒間のアニメーションで表現しているが、実際には 0.033...秒(1/30)の期間の出来事である。
この瞬間を抽出すると<図4>の様に同じ1/30秒間において、走査線ごとに車両の位置がずれている事が判る。
<図4>
実際には、この模式図は1フレームでの出来事、すなわち「一枚の画」の中の出来事であるので、<図4>を統合した場合は<図5>の様な像として1フレームの画として映像が抽出されることが判る。
<図5>
実際に CMOS内部で行われているライン露光の説明とは多少違う部分があるが、概念的にはこの様な具合で、1フレーム内に時差が起こっていると考えて良いだろう。
■動体歪みの改善
このCMOS特有の「動体歪み問題」に対しては、既に改善策が講じられており、高価な一眼レフデジカメなどでは、メカニカル・シャッタと高速処理可能な CMOSイメージセンサを利用して、動体歪みが問題にならない程度に対策されている機種も多い。しかし、動画用のビデオカメラではメカニカル・シャッタの採用は技術的に困難であるので、電子的な改善として CCDと同様にグローバル露光の方法を取り入れようとする方向で技術開発が進んでいる。
ただし、グローバル露光を実現するには、こちらもCMOS構造からくる課題が多く、特に信号電荷が露光してから蓄積され、電荷検出部で待機する間に回路内で暗電流となって、固定パターンノイズが発生しやすくなるなど、画質面に大きな影響を与えることになる。
CCDも、かつては固定パターンノイズやスミアと言った画質阻害の要素と戦い、今日に至っては、様々な技術改革で問題のないレベルに達している訳であるが、同様に CMOSイメージセンサにおいても、これから様々な課題が解決されていくだろう。
CMOS は CCDに対して、イメージセンサ自体に付加価値を付けやすい製造プロセスをしている。
システム・オン・チップという考え方だが、従来の被写体を撮像することで映像を再現するという基本的なイメージセンサの機能以外に、物体の認識や3Dセンシングなどといった複雑な処理を CMOSチップ上に実装することも可能である。
そのような機能を実装するビデオカメラが登場すれば、新たなビデオカメラの使い方が提案されるだろう。
CMOSの可能性は未来のビデオカメラの可能性でもある。
動体歪みをはじめとする様々な課題の改善をこれからも見守っていきたい。
※参照:
・CCD/CMOSイメージ・センサの基礎と応用(米本 和也 著・CQ出版)
・わかりやすいCCD/CMOSカメラ信号処理技術入門(鈴木 茂夫 著・日刊工業新聞社)
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